診療科・部門
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我が国の成人人口の約13%が慢性腎臓病(CKD)といわれています。腎臓の働きが悪くなると、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を合併するリスクが極めて高くなることが近年明らかとなってきました。 そこで、健康を脅かす疾患としてのCKD対策の重要性が広く知られるようになりました。腎臓病には、血尿・蛋白尿で発見される慢性腎炎(IgA腎症など)、 大量の蛋白尿や浮腫を生じることで発見されるネフローゼ症候群、難治性とされる血管炎や膠原病関連腎炎、遺伝性の腎臓病(多発性嚢胞腎ADPKD、Fabry病など)、短期間に急激に腎機能が低下する急性腎障害(AKI)、 そして数ヶ月から数十年の経過で徐々に腎機能の低下していくCKD、更に透析導入や腎移植の必要な末期腎不全があります。
早期のCKDから透析導入直前の末期腎不全まで幅広く診療を行います。CKDを根治することは困難ですが、その進行を遅延させることは可能です。 定期検査・腎生検・栄養指導・薬物療法などを行いながら、可能な限り腎機能の保持、更には安定化を目指します。透析導入が必要と判断された方には、治療法の選択 (透析または腎移植)などを提示した上で、適切な時期でのブラッドアクセス(シャント作成術)、透析導入をお勧めし、透析の準備を行います。
末期腎不全に至ってからの『緊急透析導入』は、患者さまの苦痛だけでなく、カテーテル挿入に伴う感染リスク・心血管イベント増大・入院期間延長など生命の危険を伴うため、可及的に避けるべきものです。 近年は『待機的透析導入』として、透析導入が予想される半年以上前にシャント作成術を行い、透析導入に備えるなどの準備をしておく治療が一般的になっています。そこで、eGFR値が20台に低下し (Hb11未満など腎性貧血も合併していれば特に)、将来的に透析治療を考えなければならない保存期CKDの患者さまを診ておられる場合には、一度専門外来(透析を考える外来)へのご紹介をお勧めいたします。
また、腎移植を希望される方に対しては、岡山大学病院などの腎移植施行施設と連携を図り、腎移植のサポートを行います(安定した腎移植後の患者さまのフォローは当専門外来でも行っております)。
IgA腎症については、『両側口蓋扁桃摘出術+ステロイドパルス療法』を行った後、経口ステロイド漸減を行う治療が標準的な治療であり、 当院でも長年行ってきました。しかし、この治療を行っても残念ながら寛解に至らない治療抵抗性のケースおいては、慢性上咽頭炎合併の関与が疑われており、 一部の腎臓専門医の間で注目され始めています。当外来では、近隣の耳鼻咽喉科の先生と連携し、IgA腎症患者さまの慢性上咽頭炎に対する『Bスポット治療(EAT)』の相談にも応じております (現在、当院内科腎臓病専門外来では塩化亜鉛液の点鼻療法のみ施行可能)。
また、遺伝性の腎臓病であるADPKDについては、トルバプタンという薬剤がその進行抑制に効果があることが近年報告されております(使用にはeGFR25以上の残存腎機能があることが望ましい)。 当外来では家族性多発性嚢胞腎とその合併症の診断、薬物療法も積極的に行っております(トルバプタンの処方を行うためには2泊3日程度の入院が必要)。
現在、全国で約34万人以上の方が透析医療を受けておられますが、当院の透析センターでは、約100人の方が維持透析を受けられています。かつては、透析は特殊な治療であり、 施行可能な施設も限られていました。しかし、現在では透析施設も増加し、安全に行える治療として一般化しています。そのため、高齢者や長期間透析を受ける方が増加しており、 長期透析に伴う合併症も問題となり、透析医療も質が問われる時代になりました。
当院の透析センターでは、患者さまに快適な日々の透析生活を過ごしていただくために、透析の質を高めることにも力を注いでいます。 例えば、透析で使用する水を良質に維持することが合併症の予防には重要ですが、当院では特殊なフィルターを使用して清浄な水を供給するなど、患者さまの目には見えないところにも心配りをしています。 水分・食事制限が必要になる方も多くおられますが、栄養管理科と連携し、透析導入後も食事を楽しめる生活が長く続けられるよう、日々の食生活もサポートしていくように心がけています。
当院では、内科・泌尿器科・腎臓・透析・糖尿病・アフェレシス専門医、透析認定看護師、臨床工学技士、管理栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなどが協力する医療体制を整備しています。 当院で対応困難な合併症については早期発見に努め、必要に応じて近郊の専門医療施設へご紹介しています。また、普段は他院で透析を受けられている方が出張・旅行などで当地を訪問される際の臨時透析や、 整形外科的疾患など合併症の治療目的で当院へ入院される透析患者さまの体外循環・全身管理を多数引き受けてきた実績もあります。
血液透析以外にも、閉塞性動脈硬化症や難治性ネフローゼ症候群に対するLDL吸着、炎症性腸疾患に対するリンパ球吸着、エンドトキシン吸着、血漿交換療法、 DFPP等のアフェレシス治療と呼ばれる、特殊な血液浄化療法にも対応可能です。
この数年は透析患者さまに対するカルニチン投与が心機能に及ぼす影響、新しい動脈硬化のスクリーニング装置の実用性の評価、リン吸着薬による動脈硬化の進展抑制効果や血糖日内変動をはじめとする臨床研究を行ってきました。ユニークな研究としては透析患者さんへの漢方薬の効果を検討したものがあります。詳細は和田の著書である『透析医のための漢方薬テキスト-西洋医学で対応しきれない透析合併症に漢方で挑む!』(アトムス社2018年)を一読ください。これらの研究結果は毎年、日本腎臓学会総会、日本内科学会総会、日本透析医学会総会、日本アフェレシス学会総会、漢方医学国際シンポジウム(シンポジスト)などで発表し、一部は国際誌(英文)に掲載されています(代表筆頭論文:Wada K, et al. Clin Exp Nephrol 2011, Wada K, et al. Ther Apher Dial 2014, Wada K, et al. Ther Apher Dial 2015, Wada K, er al. Jpn J Nephrol 2015, Wada K, et al. Int J Nephrol Renovas Dis 2015, Wada K, et al. Ren Repl Ther 2016, Wada K, et al. Ren Repl Ther 2017など)。これらの業績により(財)老人病研究所より2015年度・優秀論文賞を授賞しております。その他に、岡山大学などとの共同研究も多数進行中です(代表論文:Geriat Gerontol Int 2018, Aging and Dis 2018など)。